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バセドウ病眼症に対する新薬「テプロツムマブ」について

バセドウ病眼症に対する新薬「テプロツムマブ」について

甲状腺眼症の患者会の勉強会に呼んでいただけたので、質問を見ていたら米国で承認されたテプロツムマブについての質問がいくつかありましたので、ここでザっとおさらいして、書いておきますね。

まず一番大きなニュースはここから始まっています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28467880/

 

Teprotumumab for Thyroid-Associated Ophthalmopathy

Terry J Smith 1George J Kahaly 1Daniel G Ezra 1James C Fleming 1Roger A Dailey 1Rosa A Tang 1Gerald J Harris 1Alessandro Antonelli 1Mario Salvi 1Robert A Goldberg 1James W Gigantelli 1Steven M Couch 1Erin M Shriver 1Brent R Hayek 1Eric M Hink 1Richard M Woodward 1Kathleen Gabriel 1Guido Magni 1Raymond S Douglas 1

Abstract

Background: Thyroid-associated ophthalmopathy, a condition commonly associated with Graves’ disease, remains inadequately treated. Current medical therapies, which primarily consist of glucocorticoids, have limited efficacy and present safety concerns. Inhibition of the insulin-like growth factor I receptor (IGF-IR) is a new therapeutic strategy to attenuate the underlying autoimmune pathogenesis of ophthalmopathy.

Methods: We conducted a multicenter, double-masked, randomized, placebo-controlled trial to determine the efficacy and safety of teprotumumab, a human monoclonal antibody inhibitor of IGF-IR, in patients with active, moderate-to-severe ophthalmopathy. A total of 88 patients were randomly assigned to receive placebo or active drug administered intravenously once every 3 weeks for a total of eight infusions. The primary end point was the response in the study eye. This response was defined as a reduction of 2 points or more in the Clinical Activity Score (scores range from 0 to 7, with a score of ≥3 indicating active thyroid-associated ophthalmopathy) and a reduction of 2 mm or more in proptosis at week 24. Secondary end points, measured as continuous variables, included proptosis, the Clinical Activity Score, and results on the Graves’ ophthalmopathy-specific quality-of-life questionnaire. Adverse events were assessed.

Results: In the intention-to-treat population, 29 of 42 patients who received teprotumumab (69%), as compared with 9 of 45 patients who received placebo (20%), had a response at week 24 (P<0.001). Therapeutic effects were rapid; at week 6, a total of 18 of 42 patients in the teprotumumab group (43%) and 2 of 45 patients in the placebo group (4%) had a response (P<0.001). Differences between the groups increased at subsequent time points. The only drug-related adverse event was hyperglycemia in patients with diabetes; this event was controlled by adjusting medication for diabetes.

Conclusions: In patients with active ophthalmopathy, teprotumumab was more effective than placebo in reducing proptosis and the Clinical Activity Score. (Funded by River Vision Development and others; ClinicalTrials.gov number, NCT01868997 .).

新薬「テプロツムマブ」のバセドウ病眼症への有効性について

重要なところだけ翻訳しますね。

薬剤の有効性を評価するために、テプロツムマブを点滴された方と何にも入っていない点滴をされた方で比較しています。
両方合わせて合計88人の患者が3週間に1回点滴で計8回治療されました。Clinical activity scoreの2ポイント以上の改善と2 mm以上の眼球突出の減少があれば有効であったとされています。

結果は、6週目に、テプロツムマブ群の患者42人中18人(43%)およびプラセボ群の患者45人中2人(4%)に治療効果がありました(P <0.001)。24週の時点では、テプロツムマブを投与された患者42人中29人(69%)が、プラセボを投与された患者45人中9人(20%)と比較して治療効果がありました(P <0.001)。2群間の差異は、時間経過とともに開いています。唯一の薬物関連の有害事象が糖尿病患者の高血糖でしたが、糖尿病の薬を調整することで対応可能でした。

この研究を主導しているRaymond Douglas先生、じつはUCLAのOculoplastic出身なんです。
つまり先輩にあたる人で、僕のことも知っていると思います。

最初のこの報告では、69%に有効だったと書いてあります。
これが2017年、同じRay Douglas先生の2019年の論文です。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30575804/
Teprotumumab, an insulin-like growth factor-1 receptor antagonist antibody, in the treatment of active thyroid eye disease: a focus on proptosis

新薬「テプロツムマブ」については課題がまだまだある

有効率は71.4%と書いてあります。
これを読んで、おお!と思った方は多いと思いますが、実はいくつか知っておいていただきたい点があります。
まずこれ、活動期のバセドウ病眼症に対して行ったものであるという点、中等度から重症の方に対して有効であったというもの、かなり症状が重い方々にしているという点に注目です(ひと目でバセドウと分かるような方々です)。

つまり有効であることは分かりますが、その程度はどこまででしょうか。
ステロイドとどっちが良いのか、には答えていない。

ステロイドであれば、症状が重い方々にほぼ100%効くので、
ステロイド以上の薬であるということではありません(まだ可能性はありますが)。

そのうち両方の治療法を比較したStudyが出てくると思います。

新薬「テプロツムマブ」の値段について

次に値段です。
この研究では3週ごとに計8回点滴しています。

薬剤の価格はいくらでしょうか。
1本あたり14,900ドルです。

https://www.ajmc.com/view/fda-approves-biologic-teprotumumab-first-drug-for-thyroid-eye-disease

製薬会社はテプロツムマブは1バイアルあたり14,900ドルかかり、6か月間で約23バイアルを完全に処理し、その金額の卸売取得コストは343,000ドルで、年間の正味実現価格は200,000ドルであると述べています。(Google翻訳)

20万ドル、、、「2,000万円」越えです!!!!
日本では未認可の薬剤ですから使うためには、自費で行わなければならないのです。
ここで諦めたモードに入った方、多いのではないでしょうか。

最後に

そして最後の問題ですが、
あくまでこれは活動期のバセドウ病眼症に対する治療効果を見たものです。

そう、固まってしまったものに有効なわけではありません。
すでに完成してしまったバセドウ病眼症に有効なものではない。

例えて言うなら、誰しも子供から大人の身体になっていきますが、細胞レベルで変形して、再構築されていくので、何かの薬を使うと大人の身体が子供の身体に戻るようなことはないのです。

時間と同様、戻すことは出来ないのです。

「変化したものを変えるには、手術しかない」。
その現実は変わらないと思います。
期待していた方には、大変申し訳ありませんが、それが現実だと思っています。





著者情報

鹿嶋 友敬

Tomoyuki Kashima
/ MD, PhD

患者さんへのご挨拶

これまで10年以上にわたり日米通算1万件以上の手術を行って参りました。 今までに私が培ってきた最先端医療の知識や経験を日本でお困りの患者さんの為に提供していきたいと思っています。

経 歴

2002年 群馬大医学部卒 群馬大学
眼科学教室
2004年 伊勢崎市民病院
2005年 群馬大眼科
2007年-09年 聖隷浜松病院
眼形成眼窩外科へ国内留学
2009年 群馬大にて眼形成外来を開設
2012年 学位取得
群馬大学眼科 助教
2010年-18年 アジア太平洋眼形成学会理事
2015年-16年 カリフォルニア大学
ロサンゼルス校へ留学
2017年 新前橋かしま眼科形成外科
クリニック 開院
2018年 オキュロフェイシャルクリニック
東京 開院
2019年 The NewYork Times特別企画「Next Era Leaders 2019」選出
2020年 アメリカ眼形成学会(ASOPRS)会員

海外・国内活動

2009年 Singapore National Eye Center
2010年 アジア太平洋眼形成外科学会 北京
Invited Speaker
2011年 ヨーロッパ眼形成学会 コモ(イタリア)
2012年 世界眼科会議 アブダビ
Invited Speaker Asia ARVO 
シンガポール Invited Speaker APAO 釜山 Invited Speaker
アメリカ眼科学会 シカゴ
Invited Speaker
2013年 APAO ハイデラバード
Invited Speaker アメリカ小児眼科学会
シンガポール Invited Speaker
ヨーロッパ眼形成学会 バルセロナ
2014年 世界眼科会議 東京 Invited Speaker
アジア太平洋眼形成外科学会 デリー
アメリカ眼形成学会 シカゴ
2015年 APAO 広州 Invited Speaker
2016年 KSAS(Korea Society of Aesthetic Surgery) meeting in Seoul
ITEDS(International Thyroid
Eye Disease) meeting in
London APSOPRS &
JSOPRS joint meeting session
chair iseminer
甲状腺眼症の手術治療など講演多数。
2017年 アメリカ眼科アカデミーinstructor、
韓国眼形成学会invited speaker、
中国眼形成学会invited speaker
2018年 アジア太平洋国際学会APAO invited speaker
2019年 アジア太平洋国際学会APAO invited speaker、
ITEDS invited speaker、
OPAIC invited speaker
2021年 アジア太平洋眼形成学会 invited speaker
2022年 アジア太平洋国際学会APAO、
ヨーロッパ眼形成学会、
米国眼形成学会
2023年 アジア太平洋国際学会APAO、
ヨーロッパ眼形成学会、
米国眼形成学会、タイ眼形成学会、
UCLA解剖実習コース、
ポルトガル解剖実習コース

監修・著書

メオアイス
監修

外眼部の周術期のケアに

メオアイス
名古屋眼鏡 まぶたやその周囲の手術のあとの”腫れ”や”痛み”を防止する目的で作られた医療用商品です。

アトラス眼瞼手術
著書

責任編集者

超アトラス 眼瞼手術
全日本病院出版 眼科と形成外科のコラボレーションを目指す、意欲的なアトラスが登場! オールカラーの連続写真、詳細なシェーマでわかりやすく解説されています。

眼瞼形成手術の基本手技
著書

責任編集者

ここからスタート! 眼形成手術の基本手技
全日本病院出版 眼形成外科を目指すドクターへの入門書。手術の道具や手技を詳細に解説しています。

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